Masking/Unmasking Life

人が死を恐れる理由のひとつに、その後になにが起こるのかわからないということがあると思います。特に仏教、ミャンマー仏教でも伝統的に信仰されている考え方に、輪廻転生が挙げられます。私たち(ミャンマーで)は、誰かが亡くなると、埋葬や火葬の前に、その方の口にコインを入れます。この象徴的な行為には、来世のため旅費という意味と、より良い場所に行けるようにという祈りが現れています。この作品の前回の展覧会では、死についての内省と反映、そして必然である死への問いについて掘り下げていきました。今回、私は、生とその後、そしてそれらをめぐる祈りに焦点を移すことを目指しています。誕生と死とは、すべての生物にとって普遍的なプロセスです。この誕生と死という出来事は、私たちがコントロールできるものではなく、不確実性に包まれています。私たちが関与できるのは、この2つの必然性のあいだをどのように生きるかということです。名誉の死もあれば、漠然とした死もあり、悲劇的な死もあります。そして、生きているあいだ、私たちは時と場所と状況に応じて、さまざまな仮面を身につけています。しかし、死に際して、私たちはそのすべての仮面を脱ぎ捨ててしまうのです。
この実践は、単なる美術品の展示という域を超えた、いくつもの意味をもっています。ここは、2021年2月の革命以降に、自由と正義のために軍事政権との闘いに命を捧げたミャンマーの市民のヒーローたちに、敬意を表する空間です。仮面を剥がし、死んでいった彼・彼女らの栄誉と、その生の本質を浮かび上がらせています。
また、観客にとってここは、死、生、そして死後の世界に対し、自身の認識を内省する場にもなります。あなたの仮面を剥いだ「生」がどのようなものなのか、思い描いてみてください。最後に。この実践は、私たち人間が連帯のエネルギーを感じ取り、生と死についての認識を交換し合うことのできる空間なのです。

カミズ




Questions to reflect on death 死を想う質問
これらの一連の質問は、他人のためのものではありません。自分の生と死の意味について考えるための単なるガイドです。通常、人は死について話したり考えたりすることをためらいます。死について話すことは縁起が悪いとか、タブーだと思っている人もいるかもしれません。あなたもそう思いますか?
これらの質問に答えることで、自分自身を振り返り、生きるためのバランスを見つけることができることを願っています。
・ あなたにとって人生や生はどんなものですか。
・ あなたにとって死はどんなものですか。
・ 今までに愛する人や家族を亡くしたことがありますか。
・ 誰かの死が、あなたに生きるエネルギーや生きる理由を与えたことはありますか。またはその逆で、誰かの死によって、生きることに希望を失ったり、落ち込んだりしたことはありますか。
・ 生きることと死ぬこと、どちらの方がより難しいと思いますか。
・ 死に備えて準備をすることは、いいことだと思いますか。それとも縁起が悪いことだと思いますか。
・ 死ぬまでに一番したいことは何ですか。
・ あなたにとって死は遠くにあるものですか。それとも身近なものですか。
・ 自分の死について考えたことはありますか。
・ 数分の時間を取って、自分の死をどのようにしたいか、考えてみてください。誰に周りにいてほしいか、場所はどこであってほしいか、どのような葬儀にしたいかなど、できるだけ具体的に考えてください。

Masking/Unmasking Life( 死から「生 Life」へ)はミャンマーを拠点とするアーティストカミズが2021 年から続けている取り組みです。紙で作られているマスクは、2021 年のクーデター以降の最初の1 年間に、亡くなった方々の顔やそのプロフィールをカミズ自身が、ネットに拡散されている情報や知人・友人伝いでの問い合わせや聞き取りをして集め、それらの情報をもとに、ひとつひとつ、彼女の手作業で作成されたものです。マスクの足元に設置されているQR コードをスマートフォンなどのデバイスで読み取り、その先のリンクへアクセスすると、マスクとなった方々のパーソナルデータと、亡くなった理由や状況に関する情報を得ることができます。ここに並ぶマスクは紙製の創作物ですが、当然ながら、そのマスクはひとりの人間であり、名前があり、そして死があり、「生」でした。
 このマスクたちは、主に2021 年に作られたものです。当時はヤンゴンの街中でもデモが頻繁に起こり、街中や郊外を問わず、連日のようにその犠牲者の情報がネット上で拡散されていきました。依然として死者が出続けているという状況は、現在も変わりません。クーデター以降のミャンマーでは、暴力の実態が隠蔽されるために、死者や逮捕者数などの数値やその実態を適切に拡散することも、重要な運動のひとつになっています。
 2022 年にはじめて日本で展示した際の作品の名称は、「Masking Unmasking Death 死をマスクする/仮面を剥がす」というものでした。「死と向き合う」ことを表現とした当時のカミズさん自身も、隣人が不本意な暴力によって殺されてしまうという事態を受け止めて過ごすことに、深い悲しみを抱えていたはずです。そのひとりひとりの死と向き合い、そして「生」を想像しながら、その手でマスクを制作する=創造的行為が、彼女自身を暴力による死が頻発する現実に向き合う悲しみや困難を乗り越えることを手助けし、「生」への向かわせたのではないかと思います。
 けして、忘れてはならない死者たちがいます。そして、重要なのは、現在に至っても、クーデターによって、あるいは国軍との対立によって命を奪われる人たちがいて、その暴力がいまだに続いています。死者を慈しみ、その死から「生」を想像することで、希望的な思考をつないでいくことができるはずです。


Masking/Unmasking Life


ミャンマーを拠点とするアーティスト「カミズ」によって始められたプロジェクト。2021年2月のクーデター勃発以降、偽名のアーティストである彼女は、犠牲になった人々の顔をかたどったマスクを制作。2022年に東京芸術大学大学美術館陳列館で開催した「Masking/Unmasking Death 死をマスクする/仮面を剥がす」展を基盤にしながら、「死」と向き合うことから「生 Life」へとつなげる創作活動をインスタレーション作品として発表する。

2021年に開催した「Masking/Unmasking Death 死をマスクする/仮面を剥がす」(東京芸術大学、2021年)の3D matterport版はこちらから観ることができます。

「Masking/Unmasking Death 死をマスクする/仮面を剥がす」