当意即妙ー芸術文化の抵抗戦略展

Co-program2023カテゴリーB採択企画「当意即妙―芸術文化の抵抗戦略」展示風景

「当意即妙―芸術文化の抵抗戦略」展は、2021 年にミャンマーで起きたクーデターによってさまざまな困難を経験し、その状況を伝えるために、あるいはそこに生きる人々と共に、状況を変えようと努め、表現する5つの文化実践を紹介しています。  

 私がはじめてミャンマーを訪れたのは 2016 年でした。 きっかけは、当時大学の国際交流事業のコーディネーターを仕事にしていて、ミャンマーの都市部のヤンゴンで芸術を学ぶ人々や、文化芸術の教育に携わる現場で、交流をしながら場を作る時間を5年ほど過ごたことです。当時は、 民政移管を経て、加速度的な発展と開拓がなされていく時期。その動向を無下に賛美する訳ではありませんが、そうした混成的で、躍動的な状況下の社会を変えようとする意思、そこに生きるたくさんの人たちの有り余る熱量と勢いに未来への希望を感じました。しかし、コロナ禍が訪れ、物理的移動が難しくなった 2021年2 月、クーデターが起こりました。コロナもあり、当然現地に行くことはできません。ネットやSNS など、液晶画面越しに、みるみるうちに変わっていくミャンマーの様子、友人や知人たちの訴えや行動を目にしました。ミャンマーにはたった数年しか通っておらず、数えるほどの友人しかいません。ですが、それは私にとって、危機意識と「なにか」をしなくてはと思うには十分な理由であり、共に生きるために、できることを探しながら3年が経ち、2024年現在に至ります。とはいえ、そうした意志を抱き、時間が過ぎていくなかで実際に「なにかする」ことには、悩みと困難も生じます。直面する出来事が大きければ大きいほど、解決を目指すほど、その実現の難しさを実感します。情報を得て知識をつけるたびに、 自身の無知を後悔します。人々の悲しみに寄り添うだけではなにも解決しない。一方で、こうした困難の連鎖を実感しながら解決しようとする思考を止めないことが、私自身がミャンマーの問題に取り組む上で、できること、やるべきことだと考えています。  

 では、どうすればいいのか。共に考えたいと思ったことが、この場を開いた動機です。 

 絶望的な世界に直面した際に、すべきだと思うことは、まずはその困難の所以たる暴力に向き合い、知ることだと考えます。現在のミャンマーが抱えている「クーデターを起因とする社会的混乱や困難」は、逮捕や拘束、国軍や 国家権力的立場を利用した人々の殺戮や攻撃など直接的暴力に加え、言論弾圧やいわゆる「表現の自由」の剥奪などの間接的暴力に至るまで、多様なありかたで発動しています。それらを受けた市民、あるいは一人の人間の苦悩、心情、さらには解決したい、すべきことである目的は、当然想像を超えるもので、理解する手がかりとなる情報が、現在の日本社会にはあまりにも少ないのが現状です。まずはそうした情報、表現、意志にしっかりと向き合い、知るためには、 多様な表現手法を駆使した文化実践と向き合うことが、有用だと考えています。なにより重要なのは、そうした表現をはじめとする文化実践のなかに、《希望》を見出すこと。さらに、希望を《希望》 として認識するだけではなく、一体、それはなにかを具体 的に考察していくことだと思います。

 本展は、ミャンマーのクーデター以降の現状と、そこで起きている困難、そして絶えず紡がれている希望に目をむけ、訪れる全ての方々が希望の具体化の一端になる場を目指しています。同時に、2024 年の現在、残念ながら、絶望 的な困難は、ミャンマーだけでなく、世界中に広がっています。各地の戦争、災害と、災害によって生まれるさまざ まな問題が次々と起こっています。例を挙げるとキリがないのですが、私が生まれ育った沖縄県でも、辺野古の米軍新基地建設の国による代執行がなされ、大きくなり過ぎた怒りから、諦めに変わるような心情的苦難をどうにかせねばと考え続けています。どこを見渡しても絶望は当たり前のようにあるのが現実社会なのだと思います。そうした残酷な数々の困難に負けないように。そうした時代に生きる 全ての方々に、希望を見つける機会となることを願っています。

居原田遥(企画者)


Co-program2023カテゴリーB採択企画 「当意即妙―芸術文化の抵抗戦略」


日  時|2024年1月12日 (金) – 2月19日 (月) 10:00-20:00
会  場|京都芸術センター ギャラリー北・南
出展作家|Masking/Unmasking Life、3 AM Performance Art Collective、WART、ドキュ・アッタン、Yangon かるた
主  催|居原田 遥、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)

京都芸術センター 展覧会ウェブサイト


イントロダクション

ミャンマー

 ミャンマーは東南アジア大陸部に位置し、隣接する国は、中国、インド、タイ、ラオスに隣接し「人口大国に囲まれた国」とたびたび説明されます。日本との歴史的接点も多くあります。宗教、歴史、政治体制など、文化的には異なる地域ではありますが、その混乱かつ激動の時代を経験し、さらに民政移管という怒涛のグローバル化と自由化が後押しするなかで、混成と躍動と呼べるような、生き生きとした社会と人々の姿がありました。「Yangon かるた」では、そうしたミャンマー社会の都市の景観、文化的な慣習、生活の場など、人々の営みに発見した文化の面白さを、まるでヤンゴンの街中を冒険するような目線で、丁寧に見出しています。また、もちろん「2021年のクーデター」だけが、同地が抱える社会的困難の全てではありません。多民族国家であるミャンマーでは、とりわけ第二次世界大戦以降、数々の民族間の衝突が繰り返されています。そして同時に、「共に生きる」ということへの切実な意思表示や願いが、積み重なるように取り組まれてきました。

クーデターがもたらしたもの-暴力と困難、そして怒りと願い―

 クーデターが起きたのは2021 年2 月1 日。新型コロナウィルスが世界に現れてちょうど1年ほどの月日が流れていたころです。端的にいえば、軍が当時の主要な政治家を拘束し、政治的実権を強引に掌握したということですが、その行為に伴い生じたのは、数々の暴力と困難です。ミャンマーのクーデーター以降の状況の具体的経緯や、それぞれの文化実践を読み解くために、ドキュ・アッタンの「ミャンマーについてもっと知る」をはじめ、参加プロジェクトのYangon かるた、自由と平和な表現活動を支援するWARTのそれぞれのウェブサイトも併せて読んでみてください。その暴力はもちろん、逮捕や拘束、それらは人間の「死」を含みます。暴力はどのようなものか。そしてそうした人々は私たちを含む人々に、何を伝えようとするのか。あるいは暴力によって生まれる悲しみや、死とどのように向き合うのか。全ての参加プロジェクトに、それらを知る/思考する答えが含まれています。

市民運動の展開と文化実践

 軍によるクーデターの強行と弾圧に対して、大規模な市民運動が展開しました。そうした運動は、市民不服従運動(CDM)と呼ばれ、不当な権力行使に「屈しない(不服従)」という姿勢や意志が築かれています。ヤンゴンをはじめとする都市圏での大規模なデモや集会として始まりましたが、そうした平和的な運動も弾圧されていきます。しかし、さらに、そうした弾圧に屈さないために、あるいは身の安全を守るために、言葉ではないさまざまな表現が活用され、意志が繋がれていきます。また、CDM をはじめとする市民運動の展開は、東アジア、そしてタイで起きた民主化運動と、コロナ禍であることの社会背景を踏まえつつ、ネットやSNS を介したデジタルな場の特性を活かした方法が模索され、工夫と蓄積がなされています。

グローバル化するアクション

 軍による弾圧、逮捕や拘束をされる危険に実際に直面したり、あるいはそうした危機感から祖国であるミャンマーを逃れる人が増えました。一時的避難民、亡命など様々なケースがあります。またインドやタイの国境沿いの地域には、ミャンマーから逃れた人々の拠点になっています。そうした状況の困難を抱えながらも、同時に国内には止まらず、世界各国のたくさんの場所から、さまざまな人々のアクションが続けられています。


展示の様子


イベント

アーティストともに思考するワークショップ 「アフェクティブ・サイトAffective Site」(2024年 1月26日・27日・28日)

みんなの「希望」

展示会場では、来場者のみなさんに、この展覧会の感想やコメント、参加プロジェクトや実践へのメッセージを自由に記してもらいました。その一部を以下に写真で紹介します。


リンク

京都芸術センター 展覧会ページ

Docu Athan
Yangonかるた
自由と平和な表現活動を支援するWART
3 AM Performance Art Collective
Masking/Unmasking Death


メディア掲載・レポート

・ 「京都市中京区でミャンマーの現状をアートで伝える展覧会 現地のアーティストが向き合うものは」、2024年2月4日、京都新聞
WEB版(有料): https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1191108

・ 「当意即妙 #芸術文化の抵抗戦略」、2024年2月10日、Yangonかるた[note]
https://note.com/yangonkaruta/n/n14c3a91e1df4

・ 「【2024/1/20「ドキュ・アッタンシアター #京都」イベントレポート】「なにかがおかしい」気配を与える芸術抵抗の力――個人の意識覚醒、群衆との同期、そして社会変化へ 柏木小遥」、Docu Athan DA NOTE、2024年2月27日
https://www.docuathan.com/post/20240226

展覧会コーディネート|土方大(京都芸術センター)
設営 | 小宮太郎、本田大起、宇野真太郎、工藤由晶、土方大
タイトル翻訳協力 | ジェレミー・ウィーズリー
メインビジュアル | 中本那由子
広報協力 | 東沙織
Masking/Unmasking Life 協力 | TERASIA(合同会社 UPN)
企画 | 居原田遥
助成 | 京都市「Arts Aid KYOTO」補助事業
主催|居原田遥、京都芸術センター(公益財団法人京都市 芸術文化協会)
展示記録(写真)撮影 | 守屋友樹

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